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郭嘉のわくわくお礼参り

 何かがうごめくような気配を感じ、夏侯惇は微かに指先を動かして愛刀の在り処を確かめた。相手が何を考えているのかわからないが、曹操の片腕たる自分を狙うとは大した根性だ。連合軍の警備をすり抜け、この兵舎にまで忍び入ったのもなかなかやる。眠りを装って相手を窺おうと数回呼吸をして、妙な感覚があることに気がついた。
 まず、寒い。着込んだはずの夜着がめくれ上がっているのかもしれない、寝相はいいと思っているのだが、この肌寒さは間違いなく胸の辺りを露出してしまっている。このところ出陣することが多かったし、やっと得られた休みなので気が抜けてはいた。そのせいで寝相まで乱れているのだろうか。それともまさか、この相手がはだけてしまったのか。
 次に下腹だ。覚えのある、男として切り離すことはできないあの熱がぐるぐると渦巻いていた。朝勃ちだろうか、面倒くさいことだ。そもそも夏侯惇は性欲の薄い方なのである。曹操やその気に入りの軍師などはいつも見たこともない女性たちと遊びたがっているが、夏侯惇はまるでそういうことに興味がなかった。あまり自慰もしないが、流石に疲れには抗えないらしい。
 最後に、この相手はどうもおかしいのだ。殺すつもりならば服を剥ぐこともないし、先から微かに笑んだような吐息を感じることから、おそらく狸寝入りに気付いている。一息に殺さぬとは舐められたものよ、などと、夏侯惇は思わなかった。この男に自分を殺す気などあるはずがない、正体などとっくに気付いていた、そうだ、何をつけているのか知らないがこの甘ったるい香は。
「郭嘉!」
「おや、起きていたのですか。おはようございます、夏侯惇殿」
「お前、気付いていたくせによくも……白々しい。何をしている」
 上半身を起こすが、郭嘉は股座に蹲ったままでにこりとひとつ笑んでみせた。いつもと変わらぬ穏やかなそれが嫌な予感しかもたらさないのは、その女のように真っ白な手が夏侯惇の男根を弄んでいるからだ。
「お礼をしようと思いまして」
 制止に耳を貸さないまま、郭嘉はふぅと性器へ吐息を吹きかけた。熱っぽいそれにぞくと背筋が震える。こちらを見上げる眸は潤み、燭台の光を受けてあやしくきらめいていた。
「あなたがいなければ、私はきっと死んだままだったのでしょ……ね、お礼をさせてください」
 確かにその通りだ。夏侯惇が過去を変えたからこそ、今の郭嘉が存在している。命を救ってやったのだから礼をされてもおかしくないし、むしろその気持ちは嬉しい。夏侯惇は思わずごくりと唾を飲み込んだ。しかしこれは、だめなのだ。礼などきっとただの言い訳でしかない。郭嘉は単に、気が昂ぶって仕方がないのだ。そういえば先の出陣でもらしくなく苛烈な戦をしていた。このところの策に容赦はなく、あの性格が破綻しきった賈クでさええげつないねぇと舌を巻くような計略を笑顔で平然と吐き出していた。あの郭嘉は悪くないと曹操が笑っていたのを思い出す。それはきっとこういう意味だったのだ、あれは好色な男であるので。
「やめんか。こら、郭嘉!」
 蒸気した頬にうっとりとした笑みを浮かべ、郭嘉が男根を扱き上げる。そうだとわかってしまうと途端に熱が上がるからおそろしい。下腹にじわじわ広がる下劣な欲をまさか男に、曹操気に入りの軍師なんかにぶつけるわけにはいかない。幸い自分と郭嘉では結構な体格差がある。擦り傷くらいなら覚悟していることだろう、跳ね除けようとしたところに、低い笑い声が響いた。
「難儀をしておるな、夏侯惇よ」
 夏侯惇が口を開くよりも早く、郭嘉が華のように顔を綻ばせその男の名を口にした。かわいらしく微笑んでいるくせにその右手は男根を握ったままなのだから恐ろしい。
「曹操殿、こんばんは。奇遇ですね、こんなところで」
「眠れぬのでな、夏侯惇と碁でも打とうかと思っておったのだが……郭嘉よ、随分と楽しそうだな?」
 主の登場に流石の郭嘉も萎縮するだろうと一瞬だけ期待を抱いたが、そういえばこの主従は似た者同士であった。酒と色事を好む、どうしようもなく節操のない男たちである。
「も、孟徳。頼むからこいつをどうにかしてくれ!」
 それでも流石に曹操は自分を見捨てないかもしれない。曹操が乱世に立つと決めたその時から傍に立ち続けてきたのである。いくら気に入っているとはいえ、ぽっと出の軍師と従兄弟の自分を比べれば、流石の曹操も自分を取るだろう。僅かな希望にかけて助けを求める視線を送ったが、男はにやと笑みを浮かべるばかりである。
「どれ、わしが手伝ってやろう」
 そう言って、曹操は郭嘉の喉をあやすようにさすった。すると、そうするのが当然といった様子で郭嘉が軽く口を開く。そこから覗く舌を、曹操のそれが絡め取る。その光景を目の前にして夏侯惇は目を剥いた。薄々勘付いていたが、やはりこの二人はそういう関係なのだ。舌を啜られ唾液を混ぜられ、郭嘉は鼻から息を漏らし、喘ぎ、感じ入る。
「あはぁ、ん、んぅ、曹操、どのぉ……」
 普段の穏やかな声音とはまるで違う、あえかな甘え声だ。鼓膜を溶かし、頭の奥までぐすぐすに蕩けさせるような淫らな響きがある。角度を変えて何度も接吻を繰り返し、ちゅくと小さな音がして二人の唇が離れていく。口端に伝う唾液もそのままに、郭嘉はうっとりと曹操を見つめていた。
「手緩いな、口でしてやれ」
「は、あ……曹操殿がそうおっしゃるのなら……」
 接吻を味わっていた唇が、亀頭に吸い付いた。手淫で否応なく高められ勃起した陰茎を下から上へ何度も舐り、滲み出した先走りを音を立てて啜る。曹操の命令だからと言ったくせに、その顔に不満げな色はまるでなかった。四つん這いになって陰茎をおいしそうにしゃぶるさまは淫らとしか言いようがない。呼吸が苦しくなってようやく、夏侯惇は先程から息をするのも忘れて郭嘉に見入っていたことに気が付いた。口の周りをどちらのものかわらかない唾液や先走りで汚しながら男根に奉仕をするこの男が、郭嘉だと信じられなかったのだ。
 その惨めな姿を愛おしそうに見つめる曹操は、突き出された格好になった郭嘉の尻をゆっくりと撫でていた。嫌がっているのか寝巻き越しでもどかしいのか、ふらふらと尻が揺れている。
「そう急くでない、心配せずともくれてやるわ」
 曹操は郭嘉の寝衣を捲り上げ、香油をぶちまけた。吐きそうな程に甘いかおりがむっと広がる。鼻腔を満たすそれこそ、この男が普段からまとっている香であることに夏侯惇は気がついた。郭嘉の身体にはもうこのあやしいにおいが染み付いてしまっているのだ。恐らくは、それ程までにこういう行為を繰り返しているということである、そうでもなければ礼と称して男を襲ったりはしないだろうが。
 場数を踏んで慣れているのだろう、郭嘉の口淫は巧みだった。口腔全体を使って陰茎を扱き上げ、時折上顎でざらりと亀頭を撫でる。すると郭嘉も気持ちが良いのか、柔らかく目を細めるのが妙に愛らしく見えた。恥ずかしい声をあげてしまいそうになるのを唇を噛んで耐える。小さな呻きのひとつでも聞かれてしまったら、鬼の首を取ったように喜んだ二人から一層の責め苦を受けることは明白だった。
「んんっ! あ、う、曹操、どのぉ……」
 ふと郭嘉は何か抗議するような喜んでいるような締まりのない声をあげ、曹操を振り返ろうとした。それを押さえ付けてにやにや笑いながら、曹操が続けてやれと言い放つ。どうやら後孔に指を差し入れたらしい、じゅぷと粘着質な水音がした。
 愉快で仕方ないといった様子の男を隻眼で睨みつける、寵愛しているらしい郭嘉が他の男に手を出しているというのに、曹操は気分を害しているどころか心底楽しそうだ。郭嘉もまた、懇ろな主に浮気の現場を見られているというのにまるで気にした様子がない。この爛れた好色な男たちは、多分本来、真面目な自分がまともに接していられるような相手ではないのだろう。胃の痛むような思いがして、夏侯惇は溜息を吐き出した。
「夏侯惇殿……きもちよく、ないですか」
 重い息に不安を覚えたのか、郭嘉が弱々しい声でそう問うてくる。夏侯惇はうろうろと視線をさまよわせてしまった、こんな襲われ方は本意ではないとはいえ、郭嘉の奉仕は腰が浮きそうになる程よかったのだ。それを見透かしたかのように、これは素直ではないのだと曹操が笑う。
「余計なことを……」
「事実であろう。郭嘉よ、構わぬ。自信を持てばよい」
 その言葉に励まされたらしい郭嘉は一層熱を持って愛撫を続けた。はしたない音を立て、端正な顔立ちが歪む程性器に吸い付く姿が浅ましい。それでも気持ちが悪いと払い除けて傷をつける気になれないのは、この場に郭嘉の飼い主である曹操がいることだけが理由ではないのだろう。生温かい口腔の中で舌先が先端の穴をつつかれ息を詰めてしまう。意地の悪い笑みを浮かべる曹操と目があった。
「しぶといな、夏侯惇よ。何なら碁でも打つか? 暇を持て余しておろう」
 曹操は寝台へ左肘をつくと手のひらで顎を支えてこちらを見やり、やけにのんびりとした口調で言った。その右手は相変わらず郭嘉の後孔をほじって悪さをしているのだから、本当に質が悪い。
「あっ、あっ、う……うぅ、っん、ぶ」
 喘ぎながらも必死で陰茎を咥え、郭嘉はじっとこちらを見上げていた。この男はどうせこんなときにでも余裕のある顔をしているだろうと思っていたのだが、その眸には確かに涙の膜が張っている。生理的なものだろうか、しかし濡れて色を濃くするそのつるばみには僅かに助けを求めるような気配が感じられた。唾を呑み込む音がやけに大きく聞こえる。息が荒いのは自分だ。喉奥を突かれてえずく苦しそうな声、後孔からするはしたない水音。くぐもった嬌声がする。やはりこの男の声は駄目だ。最初にこの艶めいた声を耳にしたときから、きっとまともな思考は溶け出していたのだ。下腹に渦巻く熱を抑えられそうにない。目の奥で白い光がぎらつくと夏侯惇は隻眼を窄め、歯を食い縛った。
 しかし郭嘉はそこでついにいたずらに耐えられなくなったらしい、目を見開き高い声をひとつあげると、性器を吐き出し夏侯惇の股座にくたりと倒れ込んでしまった。弱いところを抉られたのか、伏せた身体がびくびくと震えている。達したばかりの郭嘉は苦しそうに呼吸を繰り返していたが、辛いのは自分も同じだ。射精を目の前にして放り出されては呻きが零れるのを止められるはずがなかった。荒い呼吸を繰り返す二人をよそに何一つ乱れた様子のない曹操は、濡れた指を郭嘉の尻へ擦り付け水気を拭いながら、しっかりせんかと笑っている。そうして叱咤された郭嘉は力の入らない手で男根を扱き、頬を擦り付けてくる。潤んだ眸がこちらを見上げた。
「はぁ、夏侯惇殿……く、ください。これがないと、わたし、いけな、くて……」
 ふらつきながら身体を起こすと、郭嘉は曹操によって解された尻穴に陰茎を宛がった。濡れた粘膜が触れ合って、ぐちゃと嫌な音がする。ぬかるんだそこに性器が飲み込まれていく。肩に触れた白い手に力がこもる。
「あ、あっ、は、はいる、はいっちゃう」
 呼吸が乱れる。夏侯惇も思わず息を詰めた。曹操がしつこく慣らしていたはずだし、郭嘉は経験豊富なはずだ。しかしその後孔はきつく陰茎を締め付けてくる。ふうふう息を吐きながら、郭嘉がゆっくりと腰を落としていく。熱い粘膜にそこが包まれるまでにどれ程かかったのかわからないが、曹操は飽きることなく健気に男根を受け入れる郭嘉を眺めていたし、夏侯惇もまた魅入られたようにその姿を見つめていた。
 郭嘉は夏侯惇の膝の上へすっかり腰を下ろしてしまうと、ゆるゆると首を動かして曹操を振り返った。
「んっ、は……はあ、あ……曹操どの、できましたぁ」
 締まりのない顔に浮く笑みがいやらしい。曹操は郭嘉の頭を優しく撫で、だらしなく唾液を零す唇を軽く吸った。
「夏侯惇、突いてやらぬか。ねだっておるぞ」
 無意識らしいが揺らめいてしまう腰を指摘され、郭嘉がかあと頬を染める。促される通り軽く腰を揺すってみると、甘い声が零れだす。耳朶に吹きかかる嬌声に脳を溶かされるような気がして、頭がくらくらした。
「ふあ、あ……っん、うぅ、夏侯惇殿……」
 一心にこちらを見つめる蕩けた眸が恐ろしい。吸いこまれて戻れなくなるような、危うい夜の色をしている。夏侯惇はごくりと唾を飲み込んだ。熱っぽい視線に、気を抜くとまるで本当に愛し合っているような錯覚に陥ってしまうのだ。二人きりで情を交わしている気がするのに、ぐちぐちという淫らな音に交じるのは曹操の笑い声である。
「どうだ、郭嘉よ。 夏侯惇は」
「か、たくて、おっきい、です、あ、あっ……」
 うわ言のようにそう口にした郭嘉を、曹操は他人には滅多に見せない穏やかな眼差しで見つめた。柔らかな金の髪を撫で梳かす。普段からそうして愛でているのだろう、二人の間にある特別らしい温度に、夏侯惇は知らず焦れていた。敵うはずもないし、奪う気もない。そもそも、夏侯惇は郭嘉に襲われているのだ。それでもこうも見せつけられると、何かよくないものが胸の奥で頭をもたげるような気がして怖かった。戸惑う夏侯惇の胸中を知ってか知らずか、曹操は笑みを含んだ優しい声で郭嘉に尋ねる。
「わしのとどちらが快い」
「は、あぁっ、そ、曹操どの……曹操どののがいいですぅっ、う、っんん!」
 意地がお悪いとはにかみながらも、郭嘉は当然のようにそう答えた。頬にかかる乱れた吐息は熱く、後孔は吸い付くように蠢くのに、その眸は曹操だけを見つめていた。よく言えたなと満足げに笑む男に必死で接吻をねだり、だらしなく舌を突き出す。応じた曹操が舌にしゃぶりつくと幸せそうに目を閉じた。きゅんと後孔が締まり、夏侯惇は思わず呻く。曹操がこちらに向けてくる笑みは本当にひどい。この状況を心底楽しんでいる顔だ。くくと喉を鳴らし、低い声で言った。
「まったく、愛い奴よな」
 愛しい玩具を見せびらかすのが楽しいのだろうか、従兄弟ながら、この男はおかしいと思う。曹操はそれで愉快なのだろうが、夏侯惇としてはおもしろくなかった。これでは、二人の戯れに利用されているだけだ。襲われている身とはいえ、やられっぱなしというのもつまらない。夏侯惇はぐと歯を食い縛り、揺れる腰を鷲掴みにした。細い身体を抱き寄せると同時に奥を突けば、郭嘉は驚き目を見開いて背を仰け反らせる。
「ああっ! か、夏侯惇殿、そんな……っ」
 制止に構わず腰を揺する。やめてと繰り返しているが、この男の身体はそうは思っていないらしい、吐精をねだる内壁が絡みつき陰茎を締め上げる。媚を売るのに慣れきった反応だ。郭嘉が望んでそうなったのかどうか夏侯惇にとってはどうでもよかったが、やはりまるでおもしろくはなかった。この名を呼ぶ声に曹操へ向けるもののような色はない。ただの張型として見られているに違いないのだ、そう思うと、涙を溜めてこちらを見つめる眸は熱く潤んでいるのにどこか冷めた光を宿しているようにも感じられた。
「郭嘉、そうも淫らに声をあげおって」
「あっ、あ、 わ、わたし、だめっ。曹操どののものなのに、か、感じて……あ、ああぁっ!」
 ぐと腰を突き出し奥を抉ってやると、郭嘉の不愉快な言葉も流石に喘ぎに消える。この男は、一体誰と情を交わしている気になっているのだろうか。呆れとも何ともつかぬ苛立ちがあった。曹操がどこか感心したような、得心がいったような顔でこちらを一瞥するのも気に入らない。どうせ下手に反応したところで二人を楽しませるだけなのだ。ひとつ舌を打つと、夏侯惇はただ目の前にあるこの身体を苛むことに決めた。内壁を抉り取らんばかりに亀頭を擦り付けながら最奥を突き、陰茎が抜け落ちそうになる程まで腰を引く。その腰の細さから想像した通りの軽すぎる身体は、少しでも乱暴をしたら壊れてしまいそうだ。止めてと懇願するかと思いきや、物欲しそうな視線が落ちてきた。本当に、どうしようもない男である。ねだるように揺れる尻をぴしゃりとひとつ叩いて、ひゃと驚きの声が上がったところで奥まで一気に貫いた。びくんと震えた身体が仰け反って、白い喉を晒す。男にしてはなだらかな隆起に軽く犬歯を突き立て、根元まで陰茎を埋め込んだままで腰を揺らす。ごりごりと音を立てて奥を抉られた郭嘉の両手に力がこもった。
「いいっ! きもちいいです、夏侯惇殿、あはっ、す、すご、おく、おくぅ……っ」
 衣服を脱いでいたら確実に爪痕が残っていたであろう、夜着越しながら引き裂かれるような痛みを感じて隻眼を細める。それを咎めるような気で大きく腰を動かせば、郭嘉は堪らないといったように髪を振り乱した。閉じられない口から零れる唾液と嬌声が熱く、じっとりと狂宴の熱を上げて行く。
「あー、いっ……だめ、ぁ、あんっ! だめっ、ああっ!」
 絶頂を極めたらしい身体がしなり、後孔が性器を食い千切らんばかりに締め付ける。それに耐えられず郭嘉の中へと吐き出せば、腹の辺りにどろりとした熱が広がった。それを見下ろして、郭嘉がうっそりと笑む。
  達したばかりの身体を曹操に抱き寄せられて、懐くように頬を擦り付ける。
「郭嘉よ、気は済んだか」
「はい……曹操殿。夏侯惇殿、悪くはないけれど……すこし、乱暴なんですね」
 舌を打ち、夏侯惇は一気に陰茎を引き抜いた。先端の段差が前立腺を掠めたのか、郭嘉が微かに喘ぐ。苛立ちを晴らそうとしたのが曹操にはわかったらしく、笑われてしまった。
「そう拗ねるでない、どうだ、郭嘉は愛いであろう。何なら、また貸してやってもよいぞ」
「ええ、また気が向いたら遊びにきますね、夏侯惇殿。できれば、今度は優しくしてほしいかな」
「おぬしはひどい方が快いのであろう?」
 顎をくすぐられ、郭嘉がはにかむ。もはや夏侯惇のことなどまるで気にしていない様子である。そもそも、どうして郭嘉は夜這いを仕掛けてきたのだったか。確か礼をするとか何とか言っていた気がするのだが、郭嘉は曹操と戯れるように何度も口付けを交わし、今にも何やら始めてしまいそうである。こちらをちらと窺った眸はまだ微かに濡れていたが、そこにあるのはいたずらな色だ。  やはり、やられた。夏侯惇は未だ鼓動のうるさい胸で思い切り息を吸い、そして叫んだ。
「いいから、まとめて出ていけ!」

2012.12.23